木造建築と金属製品---釘をつくる
古代の木造建築の構造は、斗(ます)や肘木(ひじき)などを積み木細工のように組み上げる枝法が特徴である。したがって、釘などの金属製品は、あまり使われなかったのではないかと思われやすい。しかし、8世紀後半、法華寺阿弥陀浄土院金堂の建築に際しては、火作り、真作り、砥磨き、堺打ち、魚子打ち、全泥などに、延べ1260人に達する銅工が従事し、1200キログラムの鴟尾(しび)2基を企め13,743個に及ぶ銅製品を製作している。建物一棟にしてこの量である。
建築にもちいる銅製品は、各種の飾り金具など装飾的な用途が多く、いわば目に触れやすい箇所にとりつけられている。
一方、目には触れにくいが、構造上ても重要な役目を果たしたのは、鉄釘類である。鉄釘や鉄鎚は主として縦材と横材の緊結に、あるいは長押、垂木の固定に、また瓦屋根の場合は互釘としても大量の需要があった。
石山寺の造営では、鉄工物部根万呂が天平宝字6年正月のある日、鉄2連(重さ7斤13両)を素材として、長押用の六寸の打合釘8本、温舩用の五寸の平頭釘12本、同しく五寸打合釘12本、長押用の六寸の平頭釘1本を作っている。
以上は、ほんの一例にすぎない。つくられた釘の総数は大変なものであった。
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