飛天
法隆寺金堂の飛天図
唐代女子像

唐代の女子像の場合、婦女は概ね豊かな髪形を有し、さまざまの髪髻を以て飾るが、童女にあっては髪を結ぶことなく、髪を自然に整えているように見受けられる(例 敦煌445窟弥勒浄土変婦女剃髪図や130窟の供養者像など)。このような例に徴すると、本図のような飛天は童女をモデルにしたものと考えるべきであろう。

飛天の源流は時代によって異なるが、その一つに西方起源の有翼天使像があることはよく知られている。この場合は概ね童男の姿で、しばしば頭を異様に剃り上げている(ミーラン出土壁画)。しかしそれは明らかに本図の形式と異なり、本飛天図の源流をそこに求めることは不可能であろう。

敦煌壁画322窟仏説法図(盛唐)
敦煌壁画322窟仏説法図(盛唐)


ミーラン出土有翼天使図
ミーラン出土有翼天使図


敦煌壁画445窟弥勒浄土変部分(盛唐)
敦煌壁画445窟弥勒浄土変部分(盛唐)


以上の諸点を総合すると、本壁画の飛天は、隋から初唐の間に西方よりもたらされた新しい形式の飛天を祖型としながら、唐代に入って台頭した中国独自の様式を受容して、初唐の後半期(7世紀後半)にある種の融合現象を示した中国式飛天とも言うべき一つの時代様式を伝えたものと思量される。それは朝鮮半島を経由したものではなく、直接中国よりもたらされたことは疑いない。とすればこのような新様式を中国から受容したのはいつであったのか。それはともかく、本飛天図が初唐様式の影響下に成立した白鳳絵画の貴重な遺品であることを再確認しておきたい。



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