其の七
海幸彦、山幸彦 そして、火照の命は海佐知毘古として、大小さまざまの魚を取り、火遠理の命は山佐知毘古として、毛の荒い獣・柔らかい獣をお取りになったんや。 さて、火遠理の命はその兄の火照の命に そうして、火遠理の命は釣り道具で魚を釣られたんやけど、全然一匹の魚も釣れへん。その上、釣り針を海中に無くしてしまわれたんや。 そして、兄の火照の命が釣り針を請求して言うたんや。 それで、弟は帯びていた十拳の剣を砕いて、たくさんの釣り針を作って弁償したんやけど、兄は受け取らへん。また、てんこもりの釣り針を作って弁償したんやけど、これも受け取らへん。 さて、その弟が泣き悲しんで海辺に座られていたときに、塩椎(しほつち)の神さんが来て、お尋ねになったんや。 すると塩椎の神さんは 「わしがこの船を押し流しましたら、ちょっとの間おって。ええ潮路があります。そのまま潮路に乗っておいでになったら、魚の鱗みたいに並び建ってる宮があります。それは綿津見の神さんの宮殿です。その神さんの御門にお着きになったら、傍の井戸のそばに桂の木があります。それで、その木の上においでになったら、海の神の娘が見て、相談にのってくれはるでしょう」 そこで、教えのとおりに行かれたところ、何から何まで言うたとおりやった。それですぐに、その木に登って腰を下ろしてたんや。 そうして、〔豊玉毘売命は〕その玉を見て、侍女に尋ねて言うたんや。 そこで、豊玉毘売の命は不思議やと思って外に出て、その人を見るなり、見て感じ入って、見交わして心を通じ、その父に申し上げたんや。 それで、三年になるまでその国にお住みになったんや。 さて、火遠理の命は、最初の釣り針の事を思い出されて、大きくため息をしたんや。それで豊玉毘売の命はそのため息を聞いて、父に申し上げたんや。 そこで、父の大神はその婿に尋ねたんやな。 そこで〔火遠理命が〕大神に語ったことは、何から何までその兄の無くしてしもた釣り針のことで責められた様子のことだったんや。 こういうわけで、海の神さんはありったけの海の大小の魚どもを呼び集めて、尋ねて言うた。 「この釣り針をもって、兄にお返しになるときに『この釣り針は、ぼんやり針、荒れ狂い針、貧乏針、愚か針』て唱えて、後ろ向けにお与えなさい。そして、兄が高い所に田を作ったら、あんたは低い所へ作り。兄が低い所へ田を作ったら、あんたは高い所へ作り。そうしたら、わしは水を支配しとるさかい、三年の間は絶対兄は貧しいやろ。もし兄が〔あんたの〕そないにすることを恨んで、攻めて刃向こうたら、塩盈珠(しほみつたま)を出して溺れさして、もしも兄が嘆いて訴えたら、塩乾珠(しほふるたま)を出して生かしたって、こないに悩ませて苦しめたりなさい」 て言うて、塩盈珠・塩乾珠あわせて二つを授けて、すぐにすべての鮫どもを呼び集めて尋ねたんや。 そこで鮫どもは、それぞれ自分の身長の長短に応じて日限をきって申し上げる中に、一尋(ひとひろ)の鮫が申し上げたんや。 そこで〔海神が〕一尋鮫に仰せになったんや。 ここで、〔火遠理命は〕手落ちなく海神が教えたとおり、その釣り針をお返しになったんや。すると、それから後は次第に〔火照命は〕貧しくなって、いっそう荒れた心を起こして攻めて来たんや。攻めようていうときは、塩盈珠を出して溺れさして、それを嘆いて許しを乞うたら塩乾珠を出して救って、こないに悩まして苦しめなさったとき、〔兄が〕頭を下げて申し上げたんや。 「わしは、これから後はあんたの昼夜の守護人になって、おつかえしますわ」 さて、海の神さんの娘、豊玉毘売の命は〔夫のもとへ〕自ら参上して申し上げたんや。 こういった次第で、その海辺の波打ち際に、鵜の羽を屋根にして産屋を造ったんや。せやけど、その産屋の屋根が葺き終わらんのに出産が迫って耐えられへんかった。それで〔豊玉毘売は〕産室に入ったんや。そしていよいよお産みになろうっちゅうときに、その日子(火遠理命)に申し上げたんや。 「すべての異郷の人は、産むときになったら、もとの姿になって子を産むんや。せやから、あたしはもとの姿で出産しようと思うわ。どうか、あたしを見んといて」 そこで、〔火遠理命は〕その言葉を不思議やと思われて、そのいよいよっちゅう出産の最中を密かにのぞき見されると、八尋の鮫に変身して、這いのたくってたんや。それを見るや、驚いて恐れ、遠くへ逃げてしもた。 せやけど〔豊玉毘売は〕、後にはのぞき見された心をお恨みになったんやけど、恋しさに耐えられへんので、その御子をご養育するっちゆう理由で、妹の玉依毘売(たまよりびめ)に託して、歌を献上されたんや。その歌は 赤玉は 緒さへ光れど そこで夫の火遠理命が答えて歌われたんや。 沖つ島 鴨どく鳥に さて、日子穂々手見の命は、高千穂の宮におられた期間は五百八十年や。御陵は、高千穂の山の西にある。 この、天津日高日子波限建鵜葺草葺不合の命が、その叔母の玉依毘売の命を妻にしてお生みになった御子の名前は、五瀬(いつせ)の命や。次に稲泳(いなひ)の命。次に御毛沼(みけぬ)の命や。次に若御毛沼(わかみけぬ)の命。この神さんのまたの名は、豊御毛沼(とよみけぬ)の命や。そのまたの名は、神倭伊波礼毘古(かむやまといはれびこ)の命や。 そして、御毛沼の命は波の高みを踏んで常世の国にお渡りになり、稲泳の命は母の国として海原にお入りになったんや。 |