◇弥生土器を追う(2)

 弥生 − 焼成の源流  土器

中国・雲南省の南西端シーサンパンナから来た3人の女性陶工さん、独特のおだんごヘアーに、派手な髪飾り、色鮮やかなタイ族の民族衣装、マントウ村のリーダーのユーモンさん(39)その娘のダンハンちゃん(14)妹のユーラーヨーさん(27)のファミリー一家です。

マントウ村には5つの陶芸グループがいたが、今も2000年前から伝わる古代の陶芸技法を守り続けているのはこのユーモンさん一家だけで、中学2年のダンハンちゃんは大変明るい利発な娘さんで、粘土こねをはじめ2人の助手として熱心にサポートを努めています。

【叩きの技法の正統派?】

雲南の土器づくりの技法にはベトナムのような「人間ロクロ」の方式はなく、直径25aの回転板を利用して作陶します。日本の弥生時代にもロクロはありませんでしたが、回転板は使われていたようです。

雲南土器の作陶は回転板の上に粘土の塊を置き、最初から叩きながら「底板」を作り、輪積み用の粘土ヒモを「捻じり上り」の技法でみごとに積み上げていきま す。この底板との「接合技術」が難しいとのことで、適当な軟らかさの水分を粘土に含めるのがポイントで、この辺りに名工の「秘技」が潜んでいるようです。

雲南の粘土も輸入できませんので、ブレンド粘土を1年かけて開発しましたが、ベトナムと異なり雲南の粘土は日本の粘土の混合方式で近似したものの開発に成功し、ユーモンさんもこれならまずOKですと合格点を出してくれホッとしました。



ユーモンさんは回転板を足の指で巧みに右廻りで回転させながら、粘土ヒモを3段ほど積み、うまく上部へと練りあげて行く。これが「捻じり上り」の技法ですがこの回転板を回すスピードと、粘土を練りあげる手さばきのリズムがうまくマッチするか、ここに秘芸のポイントがあると語っていました。
同じ「叩きの技法」でもベトナムでは土器を一応作陶し、半乾きの時に「叩き成形」するのに対し、雲南ではツボの外形がある程度出来たら、早くもここで「叩きの技法」が登場し、「叩きでの成形」をスピーディにやる手法です。
暫らく乾かした半乾きの「水かめ」の大ツボに早くも本格的な「叩きの技法」を駆使します。太い叩き板でリズミカルに叩くと、ツボは次々に大きく弧を描いて、丸く膨らんでくるから不思議です。そのご次々に独特の文様を刻んだ「刻み板」で叩くと、唐草文様、幾何学文様、竹や草木の鮮やかな文様が水かめの側面に明るく目立って刻まれます。
この「水かめ」はどんな炎天下でも冷水を入れても温かくなりません。これは素焼きの土器にしみ込んだ水が気化潜熱という物理現象を起こし、暑熱を吸収するからです。そこで「水かめ」が東アジアで重宝されているのですが、これも古代人が考えた英知であり、後世までいまだに伝わっている貴重な文化の遺産です。

雲南がルーツ?(弥生の焼成)】
 (a)焼けた「壁土」にカギ
雲南の陶芸で最も注目すべきは独特の野焼きの焼成法です。ワラ束で囲んだ上を赤土の泥で塗りつぶし、「壁土」で簡易窯の外壁を形成する「土まんじゅう」方式です。古代で考案したにしては、理にかなった焼き割れの少ない簡易で安全であり、炎を外に出さぬ「蒸し焼き」焼成法です。

粘土で丁寧に塗りつぶしていきます。このままでは当然、空気の逃げる道がありませんので、粘土壁に所どころ、空気穴を作ります。あまり開け過ぎると、急激に中に火が回る為に土器が割れてしまいます。この穴の数や場所は経験で割り出されているのです。
火口に火がついた炭を入れて、うちわで扇いでいます。空気穴から薄い煙が数箇所から出ているのが判ります。火が回ったら火口を粘土で再び閉めてしまいます。このタイミングも経験から判断しています。火口を閉めるのが遅いと、温度が急激に上がり、割れてしまいます。
サガテレビが雲南の現地で取材した雲南方式の「野焼きのビデオ」を参考に、手探りで進めた鳥栖土焼会、中里陶房との事前焼成実験の際、焼け落ちた雲南方式の「壁土」を見た鳥栖市教委石橋新次主査が、この「焼けた壁土」に注目し北部九州の弥生遺跡の出土品を考古学グループで検討した結果、この雲南方式を想わせる「焼け土塊」が佐賀県鳥栖市の「大久保遺跡」、福岡県小郡市の「一ノ口遺跡」熊本県の弥生遺跡でも出土していることが判明した。

このほか大阪府の「喜志遺跡」からもこの「壁土」が出土し、弥生中期のもの で、雲南方式はいち早く幾内地方にも拡がっていたことを示している。特に「一ノ口遺跡」の「焼けた壁土」は弥生中期頃のもので、今回実演した雲南方式のものに全く類似しており、同志社大学の森浩一教授も今後の調査研究に強く注目されている。なお小郡市の「西島遺跡」からは「大久保遺跡」によく似た弥生土器の「焼成窯跡」が発見されている。

 (b)黒班が語る弥生との関連? 

また弥生土器にはよく片面にほぼ円形の黒班があり、反対側にも黒班がついている出土品が多い。ところが雲南方式で焼いた雲南土器にもこの傾向が共通しているのも興味深い。民族学者の大阪教育大鳥越憲三郎名誉教授はこの黒班を見て、既に弥生土器と雲南の焼成方式との関連を指摘されていたが、弥生土器の焼成法と雲南方式には何か関連性が秘められているかも知れません。 このナゾの解明はすべてこれからの課題でしょうが、この実演記録が今後の研究に少しでもお役にたてばと願っています。                                                                                           


(執筆 −東アジア古代文化研究会  内藤大典)