あしびきの山の雫に妹待つと 山からの雫にこんなに濡れてしまった) 我を待つと君が濡れけむあしびきの これは大津と石川郎女との相聞歌である。石川郎女への草壁の歌もあるので、 一人の女性をめぐっても大津と草壁は競い合っていたようである。 おほぶねの津守が占に宣らむとは 経もなく緯もさだめず、処女らが 織ったような紅葉に霜よ、降ってくれるな) ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を 大津皇子と懐風藻(漢詩)衿を開いて霊沼に臨み 開衿臨霊沼(ゆったりと池のほとりでくつろぎ) 目を遊ばせて金苑に歩す 遊目歩金苑(景色を眺めながら苑を散歩する) 澄清苔水深く 澄清苔水深(澄んだ水は清く深い) 庵曖霞峰遠し 庵曖霞峰遠(連峰は霞にかすんで遠い) 驚波絃とともに響き 驚波共絃響(波は絃の音と共に響き) 哢鳥風とともに聞ゆ 哢鳥与風聞(鳥の声は風に乗って聞こえてくる) 群公倒に載せて帰る 群公倒載帰(酔ったものを乗せて帰る) 彭沢の宴たれか論ぜん 彭沢宴誰論(淵明の宴を誰が論じるだろう) ★朝猟 朝猟 朝に三能の士を択び 朝択三能士(朝には三能の士を選び) 暮に万騎の延を開く 暮開万騎延(暮れには万騎と酒宴を開く) 臠を喫してともに豁たり 喫臠倶豁矣(肉を食べのびのびとする) 盞を傾けてともに陶然たり 傾盞共陶然(蓋を傾けて酔っている) 月弓 谷裏に輝き 月弓輝谷裏(弓は谷間に光り) 雲旌 嶺前に張る 雲旌張嶺前(旗が嶺の前に張ってある) 曦光 すでに山に隠る 曦光已隠山(日の光はすでに山に隠れた) 壮士 しばらく留連す 壮士且留連(壮士たちはしばらく留まった) ★志を述ぶ 述志 天紙風筆 雲鶴を画き 天紙風筆画雲鶴(天の紙に風の筆で雲鶴を描き) 山機霜杼 葉錦を織る 山機霜杼織葉錦(山の織機で紅葉の錦を織る) 作者大津の人柄や考えにスケールの大きさを感じる。 この後に後人が付けた句もある。 ★臨終 臨終 金鳥 西舎に臨み 金鳥臨西舎(太陽は西に傾き) 鼓声 短命を促す 鼓声催短命(鐘の音に短い命を意識する) 泉路 賓主無し 泉路無賓主(黄泉の道に行くのは一人) この夕 誰が家に向かふ 此夕誰家向(どこへ行こうとするのか) |