三月に続き、再び明日香を訪れた。
空はどんよりと重く、今にも雨が降りだしそうだった。
一人で歩く明日香…。
目をつぶると、1400年もの長き年月も縮まり、
貴い古人と遇えるような、そんな錯覚に陥る。
歩きながら位置関係と人物像をを頭に叩き込む。
寺とともに滅亡した蘇我倉山田石川麻呂とその一族。
磐余池で最期を迎えた大津皇子。
藤原鎌足の一族の住んでいた大原。
板蓋宮で首を落とされ、甘樫丘を眺める位置に埋められた蘇我入鹿。
この道を、この場所を、彼等が行き来したであろう飛鳥時代。
飛鳥寺を後にした私は、何故か虚しい、もの悲しい感情で満たされてしまった。
入鹿の無念なのか、石川麻呂の、大津皇子の、草壁皇子の悲しみなのか。
黒い甍の寺や家が、今も変わりなく存在する。
桜の季節は終わっていたけれど、田んぼの蓮華や野花が咲き乱れ、
のどかで静かな明日香。
いつまでも、このままであって欲しい…
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